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東京高等裁判所 昭和41年(う)1186号 判決 1966年12月15日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役参月に処する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

各所論は原判決の量刑不当を主張するものであるが、これに対し判断するに先立ち、職権によつて原判決の法令の適用を調査した上次のように判断する。

原判決は、原判示第三の事実、すなわち被告人が呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上(一・五ミリグラム)のアルコールを身体に保有し、その影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、原判示日時場所において普通貨物自動車を運転した所為に対する適用法令として、道路交通法第六十五条、第百十七条の二第第一号を掲げているのであるが、同法第六十五条はいわゆる酒気帯び運転を禁止した規定であり、同法第百十七条の二第一号は右禁止規定に違反した者でアルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転したものに対する罰則規定であるところ、同法第六十五条によれば、同条の「酒気を帯びて」というのは、身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあることをいうものと定義づけられているのであり、同条の禁止規定は、右アルコールの保有程度を血液一ミリリットルにつき〇・五ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラムとする旨を定めた道路交通法施行令第二十六条の二の規定をまつてはじめて内容的に完備したものとなるのである。かくのごとく、同令第二十六条の二はこれによつて道路交通法第六十五条の酒気帯び運転禁止規定の内容が充足され、ひいては同法第百十七条の二第一号所定の酒酔い運転の罪における犯罪構成要件を具体的に明確にする規定であるから、酒に酔い車両等を運転した所為に対し同法第百十七条の二第一号の罰則を適用するにあたつては、同法第六十五条のほか、更に同法施行令第二十六条の二を併せ掲げない限り、到底不備たるを免がれない。しかるに、原判決は右所為に対する適用法令として同法施行令第二十六条の二を掲げていないのであり、その掲記した法令のみによつては、原判示第三の事実が果して同法第百十七条の二第一号の罰則規定に該当するかどうかを知ることができないのであるから、結局原判決には判決に理由を附さない違法があることに帰し、この点において原判決は破棄を免がれない。<後略>(坂間孝司 栗田正 近藤浩武)

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